再稼働の差し止め          4月15日

 関西電力高浜原子力発電所3,4号機の運転差し止めを住民が求めた仮処分申請で、福井地裁の樋口英明裁判長は、再稼働を認めない決定をしたそうです。昨日のことで、今日の新聞を買って少し詳しく調べてみました。
 判断の理由は原子力規制委員会が定めた原発の新規制基準に合理性がないとする物であり、政治と民意の衝突に対して政治の嘘を明らかにする物です。

 日本の裁判の仕組みでは、地方の裁判では裁判官個人の意見が通ることもあるのです。この先三審制の高裁、最高裁まで至ると政治力が発揮されて、この判決は覆るのがこれまでの政治からする予想になります。
 裁判官は法務省に人事権を握られて飼い慣らされている人が多いと本に書かれていますので、真に国民の利益を考えた処分決定や裁判の判決は、地裁でしか期待出来ない部分が実際に大きいのです。

 今回の裁判長は地方のどさ回りをさせられている経歴なので、良心と信念を貫く部分を強く持つ方なのでしょう。この様な国民思いの方がこの種の決定に関われたことをありがたく思います。
 今月22日には川内原発における同様の仮処分決定が鹿児島地裁で予定されているとのことです。この決定がどうなるかは分からないのですが、福井の決定が覆るまでに時間もかかりますし、来年の参議院選挙までには状況が変わることも期待出来ると思います。

 関西電力の主張によれば、基準地震動の700ガルを越える地震は高浜原発には来ないことになっているそうですが、これを決める能力は誰にもないでしょう。現実に2005年以降の10年足らずの間に5回も4カ所の原発にこの基準を超える地震が起きています。
 関西電力は裁判官の指摘するこの現実を無視して、高裁に訴えて政治力での解決を目指す姿勢です。

 決定要旨の中では、使用済み核燃料棒のリスクについても触れていました。大きなリスクがあるにもかかわらず、格納容器に入れるなどの対策が取られていないのです。福島でもこの使用済み燃料棒の処理を優先しているのに、全くこの現実を無視する態度です。再稼働先にありきの原子力規制委員会ですので、現実を無視して政治力で全てを動かせると思っているのでしょう。

 日経新聞には、具体的な危険論拠に乏しいとして、御用学者の森嶌昭夫・名古屋大学名誉教授の意見が載せられていました。民法・環境法の専門家とのことですが、今回の決定では人格権が論じられており、この点で環境基準に照らすコメントを出しているつもりでしょう。

 仮処分は具体的な危機が迫っていると認められる場合に下されるものだ。大地震や大津波が襲うような具体的な危機があるのかについての論拠に科学的な根拠は乏しい。法律家としてではなく、一市民としての個人的な感情に振れすぎているのではないかとしています。

 リスクが分からないを通り越して、法律家なら理解すべき保険における事故の確率も計算出来ないのでしょう。基準を超える地震が既に発生しており、その基準では安全は守れないとしているのに、この点を全く無視して具体的な危機は迫っていないとしています。法律家としての肩書きで論点をずらすための反論をしているだけでしょう。

 朝日新聞には決定で発言が引用された入倉孝次郎・京都大学名誉教授のコメントが載せられています。決定において彼の計算に根拠がないとされているからです。
 「計算式は平均像をもとにしているが、基準値振動では最も影響の大きい条件を取っている。」「今の科学でこれ以上の決め方はないだろう。決定通りにすると、根拠なしに一律に決めることになる。」としており、決定への事実誤認があると指摘しています。

 強震動学という分野の専門家の方の様ですが、今の科学でこれ以上の決め方はないだろうとはよく言えると思います。恣意的に運用するからこそ批判されているのに自分は正しいと開き直って政治力に頼るのです。
 科学としてこれ以上の決め方などいくつでも出せるでしょう。批判に耐える科学ではあり得ないのです。

 こうしてみると、御用の人たちにはまともな反論は出来ておらず、700ガルを越える地震が実際に起きているリスクを直視出来ないのです。政治力さえあれば何でも出来ると思っているようですが、その力を失うときに何が起きるのか、考える事が出来ないほどなのでしょう。これでは2度目の事故が起きかねないのです。

 政府が強権を発動し、様々な事件を引き起こしているので、こういった強権的姿勢は普通に見られる物になりつつあります。
 いつまで続くのか分からない強権政治ですが、人々の反感を買いすぎているので崩れるときには脆いでしょう。文句を言えるようになった時にその様な人がたくさん出てくるのです。

 日銀の黒田氏が、2月に首相に直言した内容が日経新聞に載せられていました。議事要旨からは削除されている物なので、問題が大きくなっていることと、強権のコントロールが上手く出来なくなっていることを伺わせます。黒田氏も追い込まれているのでしょう。
 海外の銀行の動きが日本の国債のリスクを上昇させる話なので、安倍氏にはコントロールどころか理解も出来ないのでしょう。その姿勢がリークを呼んだ物かも知れません。
 水面下では日本が国債市場においてババを引かされる話であるという事になりますが、この先の展開を見守る必要性は大きな物となりました。

稲生雅之
イオン・アルゲイン