日本のテロと政府の責任       1月27日

 ISISに拘束されていた湯川遥菜氏が殺害され、もう一人拘束されている後藤健二さんの安否が気遣われている状況です。1月20日に突然起きた身代金要求の事件の様に報道されていましたが、実際には昨年11月始めには後藤さんの家族に10億円の身代金要求があり、外務省もこれに対処していたと複数の週刊誌が書いています。

 昨年10月にイスラム国支配地域へ渡航を計画したとして26歳の北大生が私戦予備・陰謀容疑で家宅捜索されれいますが、この背景にはすでに湯川氏の救出に努力する人々の行動があったようです。この件を調べるまで気づかなかったのですが、12月には週刊誌の記事になっていたとのことでした。

 イスラム国幹部とのパイプを駆使して湯川氏救出に乗り出した人がいて、中田考・同志社大客員教授と言う方が週刊誌にコメントしています。
 中田氏は8月末にはイスラム国の司令官と連絡をとった上で、彼らの支配地域に入り湯川氏を救出しようとしたそうです。

 イスラム国が湯川氏をイスラム法の裁判で裁くために中田氏に通訳を依頼してきたことがあり、中田氏は湯川氏を助けるチャンスと考えたそうです。この時に外務省の非協力的な姿勢で現地入りが遅れ、アメリカのISISに対する空爆が始まってしまい、湯川氏に会えずに帰国せざるを得なかったとのことです。

 上記北大生の渡航はISISとの接触を持てるチャンネルになる事を期待した物であり、彼らに協力するための物ではないとのことです。中田氏はイスラム諸国とのパイプを活かして長年外務省の要請に協力する立場だったそうです。サウジアラビアの日本大使館の専門調査員だったことがあるそうです。
 これに対して政府は、北大生の渡航事件に関連して中田氏も私戦予備の疑いで捜査しているとのことです。協力者として現地まで行って来た人を一転して犯罪者扱いし、自分たちの失敗をもみ消そうとしているような状況です。

 湯川氏の救出が行き詰まり、この後後藤さんの動きにつながってゆく様ですが、後藤さんの拘束とその後の交渉でも外務省の関与がある事は確認された事実です。10億円の身代金から始まり交渉の過程で二人の救出になり金額もつり上がって、またしても交渉は行き詰まっていったとのことでした。

 安倍首相がこの件をどの様に考えていたのかは分かりません。1月7日のフランスのテロで外務省から中東訪問に対する懸念が出されても、そのまま中東を訪問しています。
 週刊誌の書く事であり、確かな確認までは取れないのですが、「フランスのテロ事件でイスラム国がクローズアップされている時に、ちょうど中東に行けるのだから俺はついている。」と語ったとされています。

 中東の歴訪がこの時期に必要な理由がどこにあるのでしょうか。アメリカとイスラエルの軍事的な協力関係を政治的に利用している人々、戦争を望む人々の望むままに行動しているようにしか見えないのです。
 イスラエルの行動が中東で他国から浮き上がって来ていることは前回も書きましたが、3月の選挙まで待たないとその先の状況がどの様に動くか分からない情勢なのに、右派と呼ばれる彼らを助けるべく助勢しているような物になります。国益を考えた先読みと言う物は彼にはないのでしょう。自分の未来でさえもきちんと見えているとは思えない物です。

 二人の日本人が拘束されており、身代金の要求を受けていたことは知っていたはずです。この中で中東の国々のISISに対抗する勢力に2億ドルも資金を援助すれば、人命をかけた交渉がうまく行かなくなるのは誰にも簡単に分かることだと思います。
 安倍氏にこの話を持ちかけたイスラエルやアメリカの関係者も、日本人が拘束されていることは知らなかったのでしょうか。ここが気になるところですが、どこまでが演出なのかは分かりません。フランスのテロ同様に計算された物を感じるのです。

 戦争を望む人々とISIS側は、日本をテロの標的にすることに成功したと言えるでしょう。日本が中立であるのか、それとも彼らと積極的に戦うのかは国益を左右する大きな問題です。今の集団的自衛権でも自衛隊の派遣など出来ないのに、ISISと戦う方向へと政策を導かれたと言える状況でしょう。

 政府の軍事的な動きについては、尖閣諸島に関連して準備されている島嶼奪還作戦がほとんど機能しないことを説明してきています。今回の中東への支援も、その背景にある軍事的な事への配慮は全く出来なかったのでしょう。日銀黒田氏への金融サポートを止めると脅されるのか、3月まで待てない程彼らに追い込まれる事情もあるのかもしれません。

 湯川氏は残念なことに殺されてしまいましたが、後藤さんはどうなるのか、これからの政府の対応にかかっています。ISISとしては彼を交渉材料に使って、様々な嫌がらせを続けることになるでしょう。
 ISISに関わる海外の国々の人々が、これまでにたくさん拘束されて殺されてきています。テロは憎むべき物ですが、その背景にある情勢を知らずして動けば、戦争を望む人々に良いように利用されるだけであると言うことです。

 その結果日本はテロの標的にされ、日本人の誘拐のリスクを高めたのですから、中東支援を自分のパフォーマンスとしか考えなかった安倍首相には大きな責任があるのです。
 野党として生活の党が対応を批判していますが、本来もっと大きく批判されるべき人命を尊重しなかった失態でしょう。結局政治もマスコミも背後にある戦争を望む人々を恐れているのです。

 この3月の変化に向けての動きは、多くの国々を巻き込んで大きな物になっていると思われます。ユーロの経済情勢とロシアへの経済的攻勢など、改めて書きたいと思っています。悪い人たちのがんばりどころのようですが、石油価格で追い込まれている部分など無理している部分も見えてくると思います。

稲生雅之
イオン・アルゲイン