アルゼンチン国債と米国債      7月15日

 2001年に1000億ドルの国債のデフォルトを引き起こしたアルゼンチンですが、7割以上の債権カットを行い、その後は細々と利払いを続けていました。
 このデフォルトに際して9割の国債保有者は債権カットに応じたのですが、残り1割ほどの人々は態度を保留にしていたようです。
 この1割の人々は、アメリカのヘッジファンドにその処理をゆだね、アメリカの裁判所で全額の保証を求めて争ってきました。

 この裁判は最高裁まで争われ、1割の債券を捨て値で買い集めたヘッジファンドの勝利となり、アルゼンチン政府はその対処に追われているところです。
 アルゼンチン政府によれば、ヘッジファンドの利益率は1600%にもなるとのことです。市場で値のつかない紙くずを捨て値で買い集め、その保証を勝ち取るのですから、この数字にもまんざら嘘ではないものを感じます。

 日本でも戦後の混乱期に、紙くずになった戦時債を日本政府への物納に利用し、ぼろ儲けをした人々がいます。紙くずを集める利益を知っていた政商とも言える人々の行いでした。結局その後お金の力になったのです。政府の無責任な動きで多くの人々が苦しんだ中で一部の人が利益を得たのでした。

 アメリカにも破産法はあるのですが、どこをどの様に解釈すると市場で値のつかない債券に大きな保証義務があることになるのか、正直分からないです。アルゼンチン政府が起債するときに不利な条件がついていた物と思いますが、最高裁まで戦って破産した債券の価値をこれまで以上に大きく認めるというのは難しすぎる判断です。

 追加負担が200億ドルも必要になるらしいのです。債券カットに応じた人々に善意があったなら、その善意は米国最高裁裁判では他の人の債権額を低下させた悪なのです。
 判決は9割の債権カットに応じた人々との間の不公平を解消するためと言われていますが、破産法における債務者の立ち直る権利とでも言うべき物は、存在できないようです。

 アメリカでは今、学資ローンという物も大きな問題になっています。有名私立大学に4年間通うと年間5万ドルx4年間=20万ドルの時代です。
 学資ローンは残高が1.2兆ドルもある巨大産業です。学費の高さも凄いのですが、このローンは自己破産による債務消滅が認められないことから、多くの業者が取りっぱぐれのないおいしいビジネスとしてここまでの成長を可能にしたのです。

 この消滅が認められなくなった理由は、1970年代くらいの昔にほんの少しの人々が詐欺で債務の消滅を行ったことが理由です。そのおかげで多くの人が債務に追われてもその消滅の認められない奴隷状態におかれる状況を作り出しています。
 ローンの詐欺ならサブプライムでいやと言うほど見てきていますが、そのローンを作った人々は今もビジネスを続けており、たいしたペナルティを支払うこともなく現在に至るのです。この国では金融や破産法における公正、公平の概念はどこかに消えているのでしょう。

 アルゼンチンは世界銀行、IMFという国際金融機関を信頼しなくなっています。中南米にはその様な国々が増えており、この状況は改めて書くことになると思いますが、アルゼンチンは2001年以降資金の調達をしていないし、出来ていないとのことです。
 アルゼンチンのフェルナンデス大統領は、ハゲタカには屈しないと述べているそうです。

 もう一度デフォルトするとさらに苦しくなると言われていますが、実際にどこまで苦しくなるのかはよく分かりませんでした。元々この状況では大きな資金移動を伴う貿易は出来ていないと思われますし、経済誌にもブラジルからの車の輸入が困難になるという話がある程度で、世界経済の危機にはつながらないとされていました。

 アルゼンチン政府は7月30日までに15億ドル支払う様に迫られていますが、ヘッジファンドとの交渉は状況が不明です。今月末に関連する経済の不安要因がここに一つと、あとは中国でも理財商品のデフォルトが出ると言われており、それぞれに注目が集まっています。イランの核協議と合わせて、注目が必要な情勢変化の要因です。
 今月を何とか凌いで9月に変化が起きるという流れはまだ可能性があると思います。

 これらの件は米国債には直接には何の関係もないのですが、これまでずっと懸念し、分からないと感じてきた今後の流れに一つの答えをくれました。
 アメリカの新通貨と根拠なく噂されるアメロですが、どうして切り替えが必要になるのか、これまでその理由が明確には分かりませんでした。
 ドルの役割の大きな部分は、世界の金融と貿易における決済通貨としての役割です。この役割を新通貨に引き継ぐには非常に大変な仕掛けが必要になるのです。このリスクを取る必要が分からずにいました。

 アメリカの法律は米国債のデフォルトに際して、今回の裁判で分かるように、価値の消滅を簡単には認めないようです。アルゼンチンよりも米国には支払いに足るたくさんの資産がありますので、債務の削減と以後の利払いには大きな制約が発生するのでしょう。
 これを嫌うのであれば、単純に債券の満額返済までドル紙幣を印刷して渡せば良いのです。これを禁止していると言うことは考えられないでしょう。FRBが輪転機を回すのですが、輪転機を回すとハイパーインフレになります。その前に米国民の持つドルのみアメロに交換するのです。国民だけでもインフレから守るという理屈で海外の債券を紙くずにするのです。政府がこれしか出来ないと言うのです。

 このめちゃくちゃな手ですが、これしか出来ないと追い込まれたら自国が得をするために発動される種類の物でしょう。過去の債務を完全に帳消しに出来るので信用は失いますが、出来ない事ではないのです。
 もちろんその結果ドルは基軸通貨でなくなり決済には使えなくなりますが、同時に世界経済は決済通貨を失い大混乱します。

 アメリカの破産を演出する人たちは、その次の手迄考えているはずです。FRBによるドルの管理には失敗したけれど、失敗から学んで新しいシステムを作り上げると提案すると思います。以下一例です。
 今のドルには金などとの交換による価値の保証はありませんが、次の通貨には国際金融資本と資本家の拠出する金、銀をベースにして、石油、天然ガス、食料などの物価に連動するバスケットによる新通貨アメロを提案し、次の決済通貨としての利用を提唱してくるのではないかと思います。

 世界経済の大混乱を前に混乱する人々に価値ある新通貨を提供することで、これまでの基軸通貨の地位と、金融利権を守りたいのでしょう。世界の人々は貿易が出来なくなると脅されるのです。
 この時には他にも大がかりな詐欺を伴う必要があると思うのですが、大混乱をどれだけ上手く利用できるかが悪い人たちの賭けでもあるのでしょう。今回のアルゼンチンを始めとして多くの国々の抵抗をどこまで抑えられるのか、真剣に考えながら今回の推移を見ているのでしょう。

 日本も心配が必要なレベルですが、米国の債務の増大には恐ろしい程の物があるのです。911の引き起こした戦争に関連する費用と、リーマンショックの引き起こした金融に関連する費用が米国の債務を1年1兆ドルずつ拡大しています。今が債務残高18.5兆ドルでこのペースはあまり変わらずに推移する予想です。

 この数字は現在必要な米国債の残高であり、米国の支払い保証とも言うべき将来の年金や保険、保証金などはここに含まれてはいないのです。この数字の公表は大きな波紋を投げかけるでしょう。60兆ドルとも100兆ドルとも噂されるこの数値は、政府によりその演出される時を待っているように感じています。衝撃の大きさは数字の大きさから考えてみて下さい。

 米国は過去二回も国債のデフォルト騒ぎを起こしています。その為に市場がこの状況に慣れてきているとも言えるのですが、将来に向けての準備でもあると思います。
 911も米国経済と世界のあり方を変えています。ハリケーンカトリーナという災害もその後の米国のあり方に大きく影響しました。この種の出来事には有無を言わせず未来を変えてゆくという流れがありますので、こういった物には注意が必要です。

稲生雅之