オバマ大統領は昨年のシリアへの攻撃中止以来、多くの人々に指導力がないとか腰抜けであるとか様々に語られています。
米国という国の中にあっては、大統領は国家の権力の全てを掌握するという力は持てないようにされているのではないかと思います。法の統治は表面に現れますが、実際の政治はその時その時の力関係で動く物なので、オバマ大統領といえども動かせない政府部門があるように感じています。
昨年はシリアのアサド大統領が化学兵器を使ったという理由でシリアへの攻撃を検討していましたが、実際に化学兵器を使ったのは結局反政府派なのか、アサド派なのかはグレーなままに解決しているのではないかと思います。
ロシアの力も借りて、化学兵器の廃棄へと進むことが出来たのでした。
この状況に見られる物は、国際情勢に関して誤った情報をオバマ大統領に提示する勢力が米国政府内部に存在していると言うことです。アサド派が化学兵器を使用したという情報操作は2回も起きています。その手法に疑問を感じさせる物にもかかわらず、一度状況がマスコミに公表されると、そこから世論が形成されるように導かれるのです。
国務省の一部かCIAの一部なのかなどよく分かりませんが、オバマ大統領の姿勢には反対しているのでしょう。
オバマ大統領もこの世論を無視することは出来ないので、シリアへの攻撃を検討せざるを得なかったのでしょう。
この状況をロシアの協力を元に崩して行き、自分は指導力がないと言われる状況を耐えることにして、シリアへの攻撃を止める流れを起こしていると思います。
シリアの反政府勢力を応援していたのはサウジアラビアやトルコなどからの資金であり、背景にはイスラム教の宗派対立があるのです。この資金を止めるとシリアの反政府勢力が打撃を受けることも検討されていたはずです。シリアの問題はまだ解決していませんが、小康状態を保てているようです。また、以後のサウジアラビアにもトルコにもその政治姿勢には変化が見られています。
今ウクライナではクリミア半島での住民投票が終わり、ロシアへの帰属を求める姿勢が鮮明になったところです。こちらは住民の意思ですが、ウクライナの政府の転覆は国民が望んだ物で、EUが支える物であったのでしょうか。
調べてみるとここにも問題のある行動が起こされており、今の暫定政府に問題のある事が明らかになるのです。この種の情報は日本語のマスコミ報道にはないものですが、調べる人々の努力のおかげで私たちも目にすることが出来るのです。
今の暫定政府の人々はウクライナの民族主義色の強い人々であり、政権を握るとすぐに今まで使えていたロシア語の使用を認めないなどの極端な政策を行っています。大統領の弾劾も正式な手続きを踏んでおらず、本当に民主的な政府なのかは疑わしいのです。
政変に先立ち100人もの人々が衝突の現場で亡くなっていますが、彼らの一部は政府側に殺されたのではなく、暫定政府側のテロにより命を落としたと言われています。
この種の情報はあまり報道されないだけで、EUもロシアも米国も承知の上での現状となっています。後でうまく利用する事は当然意識されているでしょう。
今の暫定政府はクリミアを手放さざるを得ないでしょうし、この先の政権の運営も満足に出来るか分からないのです。前回書いたようにエネルギーの問題が出てくるので、暫定政府はどんどん追い込まれる要素を大きく持っています。
IMFも資金難から高齢者への年金の半額カットを求めている位ですから、欧米側も現実的には暫定政府に距離を置いている部分があるのでしょう。
こうしてみると、EUもドイツもロシアも今回の政変を本当に望んでいた物なのか、よく分からないのです。ロシアの資金援助が停止したことによりヤヌコビッチ氏の権力が低下し政変につながったとの意見もあるのですが、米国の混乱を望む人々の協力によりこの事態が起こされているというのも現実のようでした。
双方の都合なのかまでは分からないのですが、この先の変化に対しては別々の希望を持って事に望んでいるように見えています。
このまま暫定政府の姿勢に問題が噴出すれば、国民もこれを助けたいとは思わなくなるでしょうし、結果としてロシアとの協調を望む人々も出てくると思います。ガスで権力闘争をしても失う物の方が多いですし、国民を苦しめるだけだからです。
現実にオバマ大統領はほとんど役に立たない程度にしか資金援助をしていませんし、EUもドイツもロシアも暫定政府の正当性が失われることを期待している様に見えています。これに対してマスコミの報道は、相変わらず危機をあおっている状況です。
クリミアのロシアへの帰属を認めないとオバマ大統領は主張していますが、今回の落としどころがどこにあるのか、まだ見えてきていません。この意味では戦争を望む人々にはまだ先に混乱の広がりを求めることが出来るので、情勢としては混沌としています。
ウクライナの東南部の独立の動きをどの様に扱ってゆくかで、この先の情勢が見えてくるのでしょう。ロシアが介入すれば混乱を引き起こすことになるのですが、ロシアが自制している間に民主的でない暫定政府に倒れて欲しいのではないかと思います。
4月になると天然ガスの代金は値上げされますし、ウクライナはロシアに多額の未払いガス代金を抱えています。こうなると、ウクライナ向けガスの供給の停止も視野に入ってくるでしょうし、ウクライナもEU向けのガスの輸送停止や抜き取りなどで対処する事につながるのでしょう。
クリミア情勢だけでなく、暫定政権の現実の政治問題への対処能力が試されることになり、国民の支持を取り続けられるか難しくなるのでしょう。
米国は911以降戦争を望む国になっていましたが、オバマ大統領になって以降は変化が起きてきていると思います。
ブッシュ大統領は、イラクには実際には存在しなかった大量破壊兵器をあることにして、国連を使わずに戦争を仕掛けています。これに対してオバマ大統領は、この様なやり方にストップをかけようとしているように見えています。正義のための聖なる戦いには多くの人々が扇動されてしまうのですが、その過程での問題点のあぶり出しを行っている様なのです。
米国には戦争を望む人々がたくさんいる物と長いこと思っていました。現実的には力とお金の支配であり、帝国主義の生き残りのような物です。軍産複合体や関連資本、政治も含めて多くは利益を求めて行動しているのです。
この中にあって、米国には平和を求める人々もがんばっていると感じさせられています。国民を犠牲にするだけの政策や戦争への画策など、これに反対する米国内部の動きが複数あるからこそ、平和に近づいたり戦争の危機が表面化したりしていると思います。
米国を守るためには、今までの支配を続ける為には、戦争が必要であり政治経済の仕組みを自分たちの都合に合わせて変えようとしている一部の人々がいます。一方では米国が民主主義の国として、今までの力とお金の支配ではこの世界がうまくいかなくなると考えている人々もいるようです。
この人々の動きはまだあまり表面には現れてこないのですが、来週この続きをお伝えしたいと思います。オバマ大統領は米国を一部の人のためでなく、国民のために真の民主的な国へと変えたいようです。
稲生雅之