シェールガスという新しい天然ガスの一種がブームになっており、米国ではシェールガス開発により中東からの石油輸入が不要になるなど、バラ色の未来が語られています。
2013年の7月11日に米国の未来として、シェールガスが下火になることを伝えていました。シェールガスの説明をする本はたくさん出版されていますが、ここに来てやっと問題点を指摘する本が登場しています。
シェールガスの未来については、これまでの中国の経済に対する予想の様に、ほぼ全ての人がバラ色の未来を描くも、数年で落ち込みを警告する本ばかりになるという変化が起きるかも知れないと思っています。米国の以前のITバブルと同様に、ブームを利用してお金儲けを行う人々が大半なのでしょう。
新しい本では現実にガス井の枯れる速度の速いことと、大量の水が必要であり、環境に対する負担の大きさが懸念されていました。これらの問題が徐々にクローズアップされて、ITバブルのように萎んでゆくのでしょう。
ガス開発への投資を呼び込むために、ある程度の成功が宣伝されることは仕方がないと思います。また、始めは大量のガスが出ると考えて進めたプロジェクトが予想外に低寿命であることが判明した段階でしょう。もしかしたらまだ新しい技術でガスの生産寿命を延ばせると考えているのかも知れません。実需も動いていますので、投資が回る間は生き残りを賭けて奮闘努力が続くでしょう。
環境問題としての大量の水の利用も将来性に陰を落とします。農業に水を回すかエネルギーに水を回すか、考える必要が出てくるからです。米国のオガララ帯水層や地下水、5大湖の水をエネルギーに回すと、北米大陸の水の循環だけでなく、地球全体の水の循環にも影響が及びかねないレベルなのです。
こちらの予想ではあと数年は投資が回ってがんばれるのではないかと思います。その後恐らくバブルとして萎むでしょう。今回も解析時間が足りないのでグラフによる予想ではないことを明記しておきます。
この予想をする理由の一つがFLNGという新しい天然ガスの開発技術の登場です。
FLNGとは、天然ガス洋上液化設備の略です。Fはフローティングで海の上に浮いた設備と言うことになります。
日本の輸入している天然ガスは米国や欧州とは異なり、パイプラインによる輸送ではありません。一度マイナス162度まで冷却して天然ガスを液体化し、LNGタンクを搭載した専用船で輸入しています。
天然ガスは様々な場所、地上にも海底にも眠っていますが、大規模なガス田でない限り開発されることはありません。何兆円近い費用をかけて移設できないプラントを作り上げる必要があるからです。例えばシベリアからの天然ガスを海沿いまでパイプラインで運び出し、その場で液化したあとLNG船で運び出す必要があるのです。
FLNGは超大型の船に天然ガスを液化して一部貯蔵する設備を設け、移動可能なプラントとして海の上で運用する物です。移動が可能なために、今までは規模が小さくて利用できなかったガス田も利用可能となります。この為に採掘可能埋蔵量が今までの6倍にも上がることになるそうです。これを利用したくない人はいないでしょう。
今までの問題点は、揺れる洋上での天然ガスの液化技術の確立だったそうです。この技術に目処が立ち、早いプロジェクトで2015年、日本の場合はオーストラリアのプレリュードFLNGから2017年には輸入が始まるとのことです。
マイナス162度の部分と常温の部分が存在するので、温度の変化による材料の脆性と事故時の制御が問題になったようでした。これらに目処が立ち、本格的な投資が始まるところです。こういった問題点はシェールガスの様に未知の開発ではなく工学的に解決できる物なので、投資も安心して進んでいるのでしょう。
日本の場合は正直お勧めではないのですが、メタンハイドレートが同様に利用可能なはずです。天然ガスとは異なり海底のメタンハイドレートをガス化する技術が必要になりますが、これはそれなりにうまくいっていると聞いています。
取り出したガスを洋上で液化すれば、これまでの設備を利用して天然ガスとして利用できるのです。FLNG設備をいくつか作り上げて運用すれば、日本のメタンハイドレートだけでなく、アジアの天然ガスにも利用できるでしょう。
メタンハイドレートの場合、うまくメタンガスが取り出せている間は良いのですが、海底でメタンハイドレート層の崩壊が起きると困った事態になります。大量のメタンガスが地上に放出されて地球を温暖化しかねないのです。地層にはこの種の崩壊の痕が残っているので、慎重にしないと難しいのです。一部の崩壊がつながる全体を崩壊させると考えて下さい。
結局無理しても事故を起こせばそれ以上の開発は出来なくなるのです。恐らくここまで進んでFLNGをアジアのガス田に運ぶことになると思えています。
日本のエネルギー事情は厳しいと考えられていて、今米国のシェールに頼れば大丈夫だとの意見も聞かれます。石油や天然ガスの事業者はシェールもFLNGも両にらみで動いているのでしょう。私たちも一方的な情報に踊らされず、様々な選択肢を検討できるようにする必要があると思います。
ロシアからの天然ガスパイプラインも選択肢の一つとして重視すべき物と思います。長期的経済の結びつきから政治的にも交流を広げてゆけると思います。欧州がロシアのガスを使っているのですから、日本だって使えるでしょう。
稲生雅之