リーマンショックのグラフ解析     5月7日

 過去の経済についての出来事の解析ですが、今月のアメリカの財政の崖の行方と関連事項の未来を調べてみたいと思っており、類似案件として作業を進めています。
 リーマンショックについては1年以上前に関連する本を読んで調べていました。まだ分からない事も残っていますが、リーマンショックへの流れについての解析が進みました。

 リーマンショックについての通常の解析は、このHPで2012年1月17日に行っています。リーマンショックの詳細についてはこちらを参照頂ければと思います。
 2008年の9月15日にアメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズは6130億ドルの負債を抱えて倒産しました。その後金融危機が始まりEUへも危機は拡散してゆきました。この時期から現在に至るまで、世界の景気を大きく後退させた事件です。

 リーマンの破綻への流れは、実際には1年以上前から始まっています。彼らの所有する土地担保債券に、相応の価値がないことが2007年から明らかになっています。
 市場では2007年の6月以降大きく流れが変わり、それまでは土地担保ビジネスの拡大に賭けていた人々が、次々と縮小に賭け始めた時期です。

 色々調べていますが、どうもこの時期まで、ゴールドマンサックスなどの大手投資銀行は、土地担保ビジネスの拡大にしか目を向けていなかったようです。いわゆるサブプライムローンの焦げ付きが始まってから、その姿勢を転じています。
 私は始め市場の拡大に賭けたあと、縮小への賭けに転じ、上り下りの双方でぼろ儲けを追求した物かと思っていました。現実はそうではなくて、ただ儲けに目がくらんで暴走し、取り返しがつかなくなったところで、政治力を使って何とかしたという構図のようです。

 詳しく調べるまでは、優秀な「悪い人たち」が存在して、全体の流れを見ているのかと思っていましたが、どうやら異なるようです。
 投資銀行の人々は個人個人は優秀なのでしょう。それでも業務が細分化しすぎていて他の人の業務が分かりにくいし、問題のある商品は何かを騙すことを目的にしていることもあって、全体像がつかみにくくなっていると思います。そうでなければ、超高級取りのCEOが状況を理解し、もっと早い時期に損失をカバーする策を打ち出せるからです。

 実際に市場には2005年から市場の縮小に賭けている人々が少数ながら存在し、彼らは2007年の夏の時点でぼろ儲けをしています。
 この時点で、ベア・スターンズにしても、リーマン・ブラザーズにしても、破綻を避けるために適切に大胆に行動していれば、それぞれが生き延びてこられたと思います。大きな損切りを伴う利益追求の流れを変えることは、誰にとっても難しいことなのでしょう。

 リーマンが倒産する半年前に、ベア・スターンズというリーマンより一つ下のランクの投資銀行(全米5位)が資金繰りに行き詰まり、JPモルガンに吸収されています。
 この時にFRBが290億ドルをJPモルガン経由で融資したことにより、この吸収劇となったようです。

 この時期のグラフを書いてみました。メインキーワードはFRB、財務省とゴールドマンサックスなどの勝ち組の投資銀行群です。彼らの狙いが知りたいからです。
 このグラフの中で、ベア・スターンズの崩壊という言葉の含まれている物を選び出して見た物です。3月14日の破綻以降の状況を知るために描いてみた物です。

 この始めのグラフの3月の所に注目すると、こちらもこの年の9月に破綻するAIGと、その前に政府管理に入る政府支援機関(フレディマックとファニーメイを想定)が高く出されています。それぞれの抱えた大きな含み損のもたらす混乱を表している様です。
 この時点で次のターゲットはこの2つに加えてリーマンとメリル・リンチになると思います。こちら2社は5月の所にピークが存在し、注目を促しているようです。実際にこの2社の株価は5月以降低下してゆきます。

 さらに崩壊というグラフを見るとピークが5月、9月、年末に向けて存在することが分かります。この時期に要注意と言うことでしょうか。
 このまま時が流れれば、土地担保ビジネスの縮小に伴い、順番に問題を起こしていったことと思いますが、7月に市場の流れを変える事件が起きています。

 2つめのグラフはベア崩壊に変えてリーマンのレポートという言葉の含まれている物を選び出した物です。
 7月の始めに、リーマンブラザーズのアナリストが、フレディマックとファニーメイの債券が大きな損失を抱えているというレポートを公表しました。
 この為にさらなる市場の暴落を誘うことになり、7月13日の財務省とFRBの声明を経て7月末には2社への公的資金注入法を成立させています。

 一番目のグラフとの違いとして、7月に救済の大きなピークが出ています。リーマンのレポートが救済という現実を引き寄せたのでしょう。
 ここからの現実は評価が難しくなります。せっかく成立させた法律を財務省はすぐには実行しませんでした。本当に必要になるまで世論の反応を見ると言えばその通りです。
 でもその一方で、逆に様子を見る間は市場の下落を促す事にもなるので、問題のある会社は市場で倒産価格に向かう株価の下落にさらされることになるのです。

 ポールソン財務長官は9月まで我慢しました。9月の政府支援機関のピークは7日の政府の彼らへの支援策発表を表していると思います。
 リーマンとメリルはその間の資産と株価の下落のあおりをもろに受けて、一方は破綻処理、もう一方はバンクオブアメリカに吸収されました。AIGは政府管理となります。中でもリーマンはグラフの低い位置に存在しています。

 リーマンの倒産は9月の崩壊にピークがあって現実ですが、これを発生前にリーマンの物と判断することは、まだ解析手法として難しいです。
 その後は10月のリーマンの精算に伴う混乱と政府の支援が11月まで続き、この混乱は世界に拡散していったのでした。崩壊や救済が年末に向けて上下しています。

 ゴールドマンは10月のリーマンの精算に関連して、AIG経由で約350億ドルもの利益を得ています。CDSという倒産保険と思われますが、アメリカ国民の税金からこの利益を確保しているのです。表向きはその様になっていませんが、詳しく調べてゆくと、AIGの救済とはこの部分を含んだ物になっていると言うことだそうです。
 グラフによれば、利益と欲として8月から10月にかけて緩やかなピークを持っています。投資銀行への税金投入とCDSの利益を含んでいることでしょう。

 様々に本を読んで調べていますが、投資銀行の批判をするところは少なく、特にゴールドマンを批判することが少なくなっています。当時のポールソン財務長官の出身母体であるにしても、現実にこそこそと利益を上げているのですから、本来であれば批判をされないといけないと思います。
 私的な利益誘導をいかにうまく隠して行うかが、その力の源泉なのかもしれません。こういったことが出来なくなる情報公開が必要なのでしょう。

稲生雅之