鉢呂経産大臣の辞任について  9月15日

 就任後9日で9月11日に辞任することになった鉢呂経済産業省相は、直接的には失言の責任を取って辞任したことになっています。
 大臣に成り立てのこの時期に失言をするくらいですから、鉢呂さんの脇が甘く、つけいる隙があったことは事実であると思います。

 失言内容を見ると、2つあるうちの一方の発言内容がはっきりしていません。
「残念ながら周辺市町村の市街地は人っ子一人いない。まさに死の町という形だった」これは各紙共通の様です。
 もう一つは以下のように各紙ばらばらです。

「放射能をうつしてやる」(産経新聞 9月9日 23時51分)
「放射能をうつしてやる」(共同通信 9月10日 00時07分)
「放射能をつけちゃうぞ」(朝日新聞 9月10日 01時30分)
「放射能をつけたぞ」(毎日新聞 9月10日 02時59分)
「ほら、放射能」(読売新聞 9月10日 03時03分)
「放射能をつけてやろうか」(日経新聞 9月10日 13時34分)
「放射能を分けてやるよ」(FNN 9月10日 15時05分)

 本来であればボイスレコーダーに発言が記録され、そこから記事にします。発言内容が上記のようにばらばらになるのはおかしな事なのです。
 鉢呂元大臣本人も何を言ったのかはっきり覚えていないとしています。それでも、強く言っていないと言えない何らかの圧力が存在するようです。

 鉢呂さんは民主党国会対策委員長の経験もあるので、新聞記者の扱いには慣れている方であったと思います。その分悪い冗談の言えるオフレコ発言などにも慣れていたので、そのつもりのオフレコ発言を上記のように記事にされてしまったのかなと思います。
 通常は使えないオフレコ発言を元にしたと思われる辞任です。背景にどの様な物があり、どうしてこの結果となったのかを調べてみたいと思いました。

 鉢呂元大臣は、原子力政策に対して脱原発の姿勢を打ち出しています。就任後の記者会見での発言も
・ 将来的には脱原発を目指すべき
・ 原子力発電所の新規建設は行わない
・ 原子力発電所の再起動において、丁寧に地元の理解を得ていく
・ ストレステストの内容について、IAEAの再評価を受けるべきである
・ エネルギー基本計画の見直し議論に原子力批判派の参加も確保すべきである
となっていました。

 当然ながら、鉢呂さんが経産大臣に就任するに当たって、野田首相はこの政策方針にOKを出していたはずです。鉢呂元大臣は、発言を実際に行動に移していました。
 上記発言である「エネルギー基本計画の見直し議論に原子力批判派の参加も確保すべきである」に対し、この議論を行う総合資源エネルギー調査会の委員の勢力バランスを取ろうとしました。原子力推進派が多い委員に反対派を加え、記者発表する寸前だったとのことです。
 こうなると結論は、推進と反対の両論併記になると思われ、国民の声である反対が通りやすくなります。大臣はこれを望んでいたのでしょう。

 これに対して、13日の夕刊に載った野田首相の施政方針演説を見ると、この部分は明確に異なっています。
 「原子力発電について、脱原発と推進という2項対立で捉えるのは不毛です。中長期的には原発への依存度を可能な限り引き下げていく、と言う方向を目指すべきです。」
 この様に脱原発を目指す物ではなくなり、推進派にも一定の配慮をするとしています。野田首相の政策は既に大きく変化をしていたのでした。

 残念ですが、記者発表前に鉢呂元大臣は辞任に追い込まれ、委員のリストは枝野大臣に引き継がれているとのことです。このバランスがどの様になったのか、あるいはこれからどの様になるのか、非常に興味のあるところです。
 この結果は待つしかありませんが、オフレコ発言を利用してまでの辞任追い込みには、背景にこの様な動きがあったのです。

 原子力推進派には、大きな予算と資金と、政治力があります。本来使えないはずのオフレコ発言まで利用している今回は、経産省の官僚により記者クラブの一部関係者を通じて各社へ依頼が出て、鉢呂大臣を辞任に追い込んだと見るのが説得力があると思いました。
 脱原発の鉢呂さんが失敗をさせられることで、現在の政治状況的に脱原発の推進が非常に難しい物であることが国会議員に明確に出来るのでしょう。野田政権の政策は上記に見たとおり既に変わっているのです。

鉢呂吉雄辞任 の解析結果
 鉢呂吉雄経済産業省大臣の2011年9月11日の辞任は原子力推進派による物であるかもしれない。
 原子力推進派は、経済産業省、官僚、新聞、メディア、企業、海外の圧力団体でもある。記者クラブの言葉狩りを通じた辞任だった。証言には捏造もあり推進派は国民を騙している。犯罪的な物であり、野田首相は知っていたかもしれない。
 総合資源エネルギー調査会の人選に関し、大臣の政策の転換を求める物であったかもしれない。私利私欲に基づく私物化である。

 野田首相が事前にどこまで知らされていたのか分かりませんが、脱原発を願う国民の意志よりも、利権を望む原子力推進派に取り込まれていった事は間違いなさそうです。
 野田首相は就任前から財務省の言う事を聞く人と言われていました。今回さらに経産省の言う事にも従う事となり、国民の後押しがあっても利権を優先し、官僚や不当な外部の圧力とは向き合おうとしない事が明確になってきています。

 来年末ごろにはアメリカもユーロも自国の問題に向き合うことになっていると思います。ここまで進む頃には各種利権で身動きの取れなくなっていると思われる野田政権も、国民の声の前にその役割を終えてゆくことになるのかも知れません。
 今回の大臣を辞めさせる意図があからさまなオフレコ騒動は、この様な無理をしないといけないところまで経産省も追い込まれていることを示しています。この先情報公開への流れを前にして、自分たちの都合だけで国民を騙し、馬鹿にしてきたツケを払うことになりそうです。

稲生雅之
PS 地震対策にご協力頂きありがとうございます。今の所大規模なフレアの発生もなく推移しており明日16日で一段落の予定です。まだ油断は出来ないので、明日まで引き続き対策をお願い致します。
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